【山田昭男】稼ぎたければ、働くな。

【山田昭男】稼ぎたければ、働くな。(2012/11/10)
※以下抜粋

■p25
 常に考え、差別化する習慣が身についていると、常識をくつがえすようなアイデアが沸いてくるものだ。

 たとえば未来工業のドアにはノブがない。これもある社員がふとしたことがきっかけで思いついたことだ。ドアは開ければ、閉めるに決まっている。ならば、なぜいちいちノブを回す? ノブを回すのは、時間と労力の無駄ではないか。ドアにノブをつけるなんて、誰が決めた?

 ドアにノブがついているのは世間の常識だが、そんなもの捨てるに限る。「常に考える」習慣が身についていると、この、常識を疑う力が生まれてくるのだ。

 「いっそのこと、ノブを取りはずして、スイングドアにしてしまえばいいんじゃないか」

 言われて周りも「たしかにそうだ」と気がついた。やってみたら、ほんとうに便利なことこの上ない。両手いっぱい荷物を抱えていても、体でポンと押してやれば、ドアは簡単に開く。そのまま自然にドアは元の位置に戻るから、いちいち振り返ってドアを閉める手間もいらない。ドアがあっても、そこにあたかも何も存在しないかのように、ストレスなく通り抜けられる。

 なぜ今までこんな簡単なことに気がつかなかったのか!

 ドアにノブがあるのは「常識」だ。その常識を何の疑いもなく、そのまま受け入れてしまうのが97%の凡人だった。残り3%の成功者になりたかったら、「常に考えて」常識を疑ってみる必要がある。簡単なことだが、その積み重ねが人生を変えていく。

 

■p102
 人は放っておくとすぐマイナス方向に物事を空想してしまいがちだ。お歳暮を贈らないと、お客さんに逃げられてしまうんじゃないか、お中元を返しておかないと機嫌を損ねるんじゃないか――。でも、実際に逃げられた奴はいるんだろうか? お中元を贈らなかったら、つぶれたという会社はあるんだろうか? もしあったら教えてほしい。

 おそらくひとつもないだろう。なぜなら、贈らなかった経験がないからだ。贈らないと客に逃げられる、と「空想」するので、みんなが贈る。誰も贈らなかった経験がないのだから、実際のところはわからない。わからないのに、逃げられると考えるのはマイナスの空想にすぎないではないか。そんな思考にとらわれているからほとんどの会社や人間は伸びないのだ。

 贈らないと、逃げられるかもしれない。これはマイナスの空想だ。反対に、贈らなくても、絶対逃げられないと思えばいい。これがプラスの想像である。

 私はよく常識と真逆のことをやる。休みを増やしたり、タイムレコーダーを廃止したり、残業をなくしたり、福利厚生を充実させたり、給料は業績が上がる前にどんどん増やしてやったり。そのたびに経営者仲間はぶったまげて言ったものだ。「山田さんはアメばっかりだね。ムチがないとダメだよ。社員になめられるよ」

 私は不思議でならない。「おまえさんは、なめられたことがあるのかい?」。そう聞いても、実際になめられたという者はひとりもいない。なめられたことがないのに、なめられるような気がして、「なめられる」と騒いでいるだけのことである。

 それはマイナスの空想の固まりにすぎない。やってもいないことを、やる前からなぜダメだと決めつけるのだ。人は百人いれば百人、自分が経験してもいないことをマイナスに空想したがる。そしてビビッて現状に留まってしまう。現状とは、97%の会社が留まっている「儲からない状態」のことだ。能力のない人間はやたらとマイナスの空想をする。空想するから稼げなくなる。

 そもそもビジネスはみな経験則でできているはずだ。経営は空想ではなく、経験に基づいて行うものだ。だから経験そのものをたくさんすべきなのである。にもかかわらず、なぜ経験する前に空想するのだろうか。マイナスの空想が浮かんできたら、必ず一度自分に問うてほしい。あなたは「それ」を実際に経験したのか? 「それ」はほんとうに起きることなのか? そうすれば、いかに自分がマイナスの空想にとらわれていたのかがわかるだろう。

 ある時、こんな質問をする人がいた。「マイナスの空想とリスク管理はどう違いますか?」。両者は似ているようで明らかに違う。リスクとは実際にそれが起きた実例があるものだ。つまり、経験則があてはまる。

 たとえば一社に売り上げの30%以上を依存していると、倒産のリスクが高まる。そんな実例は山ほどある。「売り上げが一社に集中すると、もしもの時に共倒れになるかもしれない」という危険性を見越して、得意先を増やそうとするのは、リスク管理であってマイナス思考ではない。

 でも、「お中元を贈らなかったら、得意先がヘソを曲げて取引が減るかもれない」と考えるのはマイナス思考である。実際にそれで被害が出た会社があるのかといったら、そんな例はないだろう。

 ありもしないことを空想するのがマイナス思考だ。実際に起こったことを検証して、それに備えるのがリスク管理であり、プラスの想像力だ。このふたつをはき違えている人が多いのは、なんとも困ったものである。