【佐藤優】いま生きる「資本論」

※以下抜粋

■まえがきより

 古典(クラシックス)と認知されているテキストは、危機の時代を読み解き、その解決策を見出すために、とても役に立つ。

 

■p17
 「大日本(おおやまと)は神の国である。なぜかというと神の国だから」。これは究極のトートロジー、同語反復ですね。でも、それはいいのです。ものすごく重要なことは最終的にトートロジーにしかならないのだ、と先ほど名前を上げたヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』できちんと論じられています。

 

■p153
 浅田次郎さんの修行時代のエピソードがあります。浅田さんはデビュー前、アパレルの店をやっていたのですが、これは商売とみなして、「商売が終わった後、家に帰って自分の仕事をする」と思っていた。仕事というのは、作家だ、と信じた。それで何をやったかというと、いろんな名作を原稿用紙に万年筆で写していったのです。

 

■p175
 絶対に解決できないものがヘーゲルの概念にあります。<差異>ですね。例えば男と女の差。男を女に完全にすることはできないし、女を男にすることもできない。主義主張や思考で差異に関わることは、<趣味>なんです。「これは私の趣味です」と言ったら、ヨーロッパやアメリカやロシアでは、その先の議論が止まるのです。趣味は差異の問題だから、対立していかないんです。

 

■p229
 人間は限界がわかれば恐れは出てこないものです。

 

■あとがきより
 資本主義システムに対応できるのは、個人でも国家でもない中間団体であると私は考える。具体的には、労働組合、宗教団体、非営利団体などの力がつくこと、さらに読者が周囲の具体的人間関係を重視し、カネと離れた相互依存関係を形成すること(これも小さな中間団体である)で、資本主義のブラック化に歯止めをかけることができると思っている。