【藤田伸二】騎手の一文

※以下抜粋

■p121
 エージェントというのは、日本語でいえば騎乗依頼仲介者のこと。契約を結んだ騎手の代理として、馬主や調教師から騎乗依頼を受けつつ、その騎手の騎乗馬を調整することを、おもな仕事にしている。

 もともと、全盛期の岡部さん(岡部幸雄元騎手)が1990年半ばから後半にかけて年間騎乗回数が約650になり、どのレースでどの馬に乗るのか、殺到する騎乗依頼をさばくことが大変になってきたため、旧知の競馬専門誌貴社にスケジュール管理を頼むようになったことが、エージェント制度の始まりとされているようだ。

 いわば自然発生的に現れたスケジュールの”調整役”を利用する騎手が、徐々に増えてきた。だから、騎手と正式な契約をする”エージェント(騎乗依頼仲介者)”として、JRAに届け出なければならない制度が始まったのが、2006年5月、ということになる。

 本来、騎手の負担を軽減することが目的で始まったエージェント制度だけど、その問題点というか弊害が出てきている。

 

■p126
 ユタカさん、ノリちゃん(横山典弘騎手)、四位(四位洋文騎手)といった一流どころの場合、そのレースはもちろん、次以降のレースも考えて騎乗している。いまの若手騎手たちも経験を積んでいく過程で、そうしたノウハウを学んでいるはずだ。ところが、 エージェントや、エージェントと直接交渉している大手クラブなどの馬主とかが、目先のレースを勝つことだけ考えて、安易に外国人騎手に乗り換えさせるケースが続発していることも、今の競馬界では大きな問題だと思う。

 俺はね、別に外国人騎手が悪いなんて、一言も言ってない。そりゃ来る者拒まずのシステムがあれば来るって、彼らは。だってそうでしょう。稼がせてくれる場所があれば、この時代、誰だってどこへでも行く。やっぱり悪いのは、JRAの作ったシステムなんだ

 

■p138
 何度も海外遠征に行っているけど、こちらが一生懸命頼んだって、海外では全然乗せてもらえないんだ。アメリカに行った時なんか、調教すらなかなか乗せてくれなかった。
 
 これは、俺だけとか日本人だけじゃなくて、どこの国でも外国人騎手に対してはそれが普通なんだ。つまり、通常は騎手が外国の競馬で活躍しようと思ったら、長期間住みながらコツコツ実績を積み上げて何年もかけて、ようやくその国の一流馬を任せてもらうものなんだ。
 
 それなのに、日本だけがなぜだか外国人騎手をありがたがっている。そりゃあ、それぞれの国でリーディング上位になっている騎手だというのもわかるけど、外国人騎手たちは、自国では馬主とその所有馬に最優先で乗るという条件で契約している。フランキー(ランフランコ・デッドーリ騎手)なんて、モハメド殿下との契約だけで、年間何億円ももらっていたと言われている。ライアン(ライアン・ムーア騎手)だってウィリアムズ(クレイグ・ウィリアムズ騎手)だってそう。腐るほどお金を持っている。それでもなお、俺たち日本人騎手にオフシーズンはないけど、彼らは本国のオフシーズンを利用してお金を稼ぎに来ている。

 そんな彼らのためになんでいい馬を回してさらに稼がせる必要があるのか。日本には十分に乗せてもらえず、稼げない騎手が山ほどいるのに。