【森田正康】IQよりも、知識よりも、僕たちは知恵を身につけるべきだと思う

【森田正康】IQよりも、知識よりも、僕たちは知恵を身につけるべきだと思う(2012/9/11)

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 語学で最も大切なことは、スピーキングです。語学といえば最近では英語か中国語かということになってきましたが、英語に関しては、嫌というほど勉強してきているのになぜうまくならないのか? 苦手意識が克服できないのか? TOEICの点はいいのになぜ話せないのか?

 その理由は、教育方法にあると言われています。

 みんなそうだったと思いますが、日本では今まで文法に力を置いたリーディングとライティングが重視されてきました。「三単元のsが抜けているからこの文は間違っている!」と先生に怒られて勉強してきたわけです。それじゃあ文法ばっかり勉強するようになるでしょうし、苦手だ、難しい、と思ってしまうのも無理はありません。

 しかし、実際に海外で人と話してみて気づくことですが、彼らは文法なんてあんまり守っていません。「細かいことはいいんだよ!」と言わんばかりです。

 でもそれって、日本語も同じですよね。話している時、文法を気にしたことがあるでしょうか?「『こんにちは』の『WA』って、『は』だっけ『わ』だっけ?」とか、「この言葉の活用はどうだっけ……」とか、甚だしい間違いは別としても、自分も気にしないし、相手の話していることもそんなに気にならないと思います。

 そこで、語学の習得のためのポイント1つ目。

 「神経質にならないこと」です。

 間違っても死ぬわけじゃないんだから、気楽にやってみることです。単語ばかり覚えていても、話さなければ上達はしません。

 そして2つ目は、「積極的に伝えようとすること」。

 日本人が抱える多くの問題が「話すことを恥ずかしがる」ことです。「自分の発音は完璧じゃないから」「下手だから」と、非常に消極的な人が目立ちます。

 発音はいいに越したことはありませんが、それよりも大切なのは、伝えようとすることです。

 他のアジアの国の人なんかも、発音はあんまりよくありません。でも、日本人と比べると上達がずっと早いのは一つには言語の構造などもありますが、「積極的に話そうとする」という姿勢が何よりも大きな要因となっているのです。

 重要なことをお伝えしておくと、海外では「黙ってるやつは気持ち悪い」と思われます。

 日本では、口数の少ない人は穏やかであったり、優しいと言われたり、人前に出る時に照れれば「かわいい」とか言われるものですが、海外の評価は正反対です。

 黙って話を聞き、愛想笑いやあいづちを打つ……そのくせ心の中では反対意見を持っているというのは海外の人には理解できず、「気持ち悪い」という評価になります(世界的に見るとあいづちというのは結構マイナーな文化で、「同意」のサインと見られているのです)。

 そんなこともあるので、とにかく話すようにしましょう。

 相手の話を聞く時は目を見て、思ったことはどんどん口に出してください。

 たとえそれが下手な発音でもめちゃくちゃな文法であったとしても。黙っているよりかはずっと印象もいいのです。

 自分が聞く側だったら、何も言ってくれない人と、下手だけれど一生懸命何かを伝えようとしてくれる人、どちらに好感が持てるでしょうか? もちろん後者ですよね。自分に自信を持つことは大切であると他の項目でも何度も言っていますが、会話においてもそれはとても重要なことです。英語に自信がない人ほど、自信を持って話してください。

 続いて、勉強の仕方について。

 3.「使える語学を身につける」ことです。

 英会話学校などに通われている人も多いと思いますが、ただしゃべればいいてものではありません。重要なのは、シチュエーションを想定し、予習をしておくことです。

 基本的に英語学校が用意しているプログラムと現実世界の乖離は大きなものがあるので、事前に「こういうシチュエーションのこういう時の英語を覚えたい」と要求することが大切です。

 日本のマジメ気質は子どもの教育から始まっているのかもしれませんが、小さい子がよく「giraffe(ジュラ~フ)」と流暢に発音をしているたびに僕は思います。

 人は生涯において、何回「キリン」という言葉を使うでしょうか? せいぜい、100回とかそんなもんではないでしょうか。

 それよりも、「Stir-fry」(炒める)という単語を覚えて、「チャーハンを炒めたんだけどうまく卵が混ざらないんだよね~」なんていう会話ができるようになるべきでしょう。

 日本の大学受験に出てくる単語や構文も論文や契約書にしか出てこないものも多く、たとえば「so that」もネイティブからすると「会話なのに堅苦しいね」と言われてしまうのです。

 そういう、覚えても仕方のない単語や構文を覚えるのも「使えない」理由の一つです。

 やはりここでも、どんな場面を想定して勉強していて、どんな語彙が必要になるのか、あらかじめゴールを設定しておかないといけません。

 あとは、「聞いて覚える」系の教材も、あんまり効果はないと思います。

 リスニングも大事ですが、誰だっていざ現地に行ってしまえば聞けるようになるまで時間はそうかかりません。問題は、表現力なのです。

 何より、ラクして習得できるほど語学は甘いものではありません。

 そこで、4.「モチベーションの上がるゴールを設定する」です。

 趣味ならまだしも、「仕事で必要だから」と嫌々する学習はどうしてもモチベーションが低下します。大切なのは勉強してそれがどう自分に利益をもたらすのかをイメージすることです。

 たとえば、こんなのはどうでしょうか。

 「英語を話せるようになったら、世界の10億人とコミュニケーションを取ることができる」

 2章で解説した目標設定にもつながってくる話です。

 より具体的で、夢のある目標になると、姿勢も変わってきます。

 これは「お前、英語今年中にマスターしろよ」みたいに、人に目標を与える時も同じです。

 「どれだけエキサイティングな体験ができるか、限りない可能性を想像させるよう促す」それこそが、教育に必要な考え方だと思っていますが、それは仕事も同じでしょう。

 自分自身に対しても他人に対しても、モチベーションが高まってくる目標を掲げられるような訓練をしてみてください。